世界無形遺産 能楽 第五回公演
主催:(社)能楽協会 於: 国立能楽堂
解説講座 …高橋 忍
なかなか面白かった。世阿弥の『初心忘るべからず』の初心とは、現代の「入門した頃の意気込み」的意味ではなく、「自分は未熟である」ということを常に心に留めるようにということである、などなど。会場で小音量で同時通訳すればいいのに、もったいない。
『時分の花』は個人的に、万年「自分の花」でご機嫌なことを思い、笑えてしまうのが困ったことです。
棒に縛られるのが次郎冠者なのが意外。狂言ハンドブックを見ると、大蔵流の流儀とか。今日は、縛られていても手首が動く、というアクションが派手だった。後ろ手に器を持って次郎冠者に飲ませてあげる太郎冠者の体が、器が傾くに従って反っていくのが面白かった。
次郎冠者の肩衣の背中がクモの巣にカニがいる判じ物。「蜘蛛=ささ蟹」という洒落…?お酒好きの「ささ」にも掛けてあるのだろうか? 装束が土蜘蛛の謡で、劇中の余興が竹生島の小謡…。狂言には、知らなくて気がつかない謡がたくさんありそう。
能 (金春流)「邯鄲」
シテ・盧生…金春安明 子方・舞童…辻井美遊
ワキ・勅使…村瀬 純
ワキツレ・大臣…村瀬 提 村瀬 慧
ワキツレ・輿を持つ人…中村 弘 有馬 広
間・女主人…大蔵千太郎
大鼓…亀井 実 小鼓…観世新九郎
太鼓…金春國和 笛 …一噌仙幸
後見…本田光洋 横山紳一 辻井八郎
地謡…本田布由樹 井上貴覚 本田芳樹 中村昌弘
高橋 忍 高橋 汎 吉場廣明 山井綱雄
よかった。
宿の女主人が、狂言でのように頭に布を巻いて垂らした姿でなく、黒い髪を後ろで束ねていたのが珍しかった。大陸ということなのだろうか。盧生は始め、幽霊のようなノイローゼの最中の感じだったが、だんだん存在感が増していくのが、見ごたえがあった。女主人、勅使、大臣と流れるように周囲が入れ替わると盧生の人生も移り、誰も居なくなって地謡が速く激しく盛り上がると橋掛りから一挙に、枕のベッドに戻った一畳台にバッタリ横になるのが、いかにも束の間の夢と目覚めを暗示しているようで素晴らしかった。
「楽 (ガク)」が実に見事で、宮殿の一畳台の中の変化した動きが、「あ、本当に楽だわ」とわかるツボの間を繋いでいて、広い所では大きく膨らみ、すっと柱の内側に入って当たることなく、中のほんの小さな2〜3足も大きくゆったりと見えた。転落しそうな描写のところ、夢から覚めてしまうのではないかとひやひやした。下に下りて舞った後の楽の終りは、謡の語尾が本当に長く、地謡との境い目が無いくらい。
面白かった。